見慣れているようで、名前も由来もあまり知られていないのがお墓の石です。部分の一つひとつに呼び名があり、鏡のような艶にも、赤い文字にも、卒塔婆の刻みにも、ちゃんと理由があります。雪の深い土地ならではの事情とあわせて、やさしくまとめました。このページは、仏式の和型を中心にご案内します。
Every part of a Japanese grave monument has a name — and a reason. A quiet guide to stone, inscription and custom.
まずは呼び名から。ここを知っておくと、石材店や寺院との話がぐっと通じやすくなります。
The vocabulary of a grave — from the standing stone to the chamber beneath.
毎年手を合わせている石にも、たどっていくと技術や思想の歴史があります。
Five things rarely mentioned about the stone visited each year.
いまのお墓といえば、鏡のように磨かれた石を思い浮かべるかもしれません。ところがあの鏡面仕上げは、比較的あたらしい姿です。
昭和の中ごろまでは、ノミやタガネで叩いて整える「小叩き(こたたき)仕上げ」が多かったといわれます。手仕事でならすため、表面はややざらついた質感になります。昭和40年代(1965〜1974年)ごろからダイヤモンド砥石や自動研磨機が広まり、石を鏡面まで磨き上げる加工ができるようになったとされます。
磨くのは、見た目のためだけではありません。表面の細かな凹凸がなくなると、水や汚れが染み込みにくく、苔もつきにくくなるとされます。風化を遅らせる効果があると説明されることもあります。
「昔ながらのお墓」と思っていたあの艶が、実はそれほど古い技術ではない、ということになります。
墓石や墓誌の名前が、赤(朱)で入っているのを見かけたことはないでしょうか。あれは塗り忘れでも、傷んだのでもありません。生きているうちに刻まれた名であることを示すもの、と説明されます。
生前に自分のお墓を建てることを寿陵(じゅりょう)といいます。古代中国の皇帝が即位するとすぐ自らの陵墓を造りはじめた例に由来するとされ、日本でも古くから、長寿を願う縁起のよいこととして受けとめられてきました。
朱色は、古来「生命力」「邪気払い」を表す色。生前に戒名(法名)を授かったとき、まだ生きている方の名であることを区別するために赤を入れます。そしてその方が亡くなったとき、納骨や法要にあわせて赤を落とし、黒や白などの通常の文字色に直します。
※ お墓全体を生前に建てた場合だけでなく、夫婦墓などでご存命の方のお名前だけを朱にする形もあります。地域や宗派によっては赤を用いない場合や、亡くなったあとも赤を落とさない場合もあります。
法要のときにお墓の後ろへ立てる、細長い木の板。卒塔婆(そとうば)といいます。語源はサンスクリット語のストゥーパ——仏塔を指す言葉です。
その卒塔婆の上のほう、左右に小さな刻みが並んでいます。あれは飾りではなく、日本の古い墓塔である五輪塔(ごりんとう)の形を、板の側面で表したものです。
五輪塔は下から、四角(地)・球(水)・三角の屋根(火)・半月(風)・宝珠(空)。仏教で世界をかたちづくるとされる五つの要素、五大を積み上げた姿です。細い木の板一枚に、塔がまるごと畳み込まれている。そう思って見ると、法要での見え方が少し変わります。
※ 浄土真宗では、基本的に卒塔婆を用いません。宗派によって扱いが異なります。
墓石の下の納骨室——カロート。名前は同じでも、東日本と西日本で構造が違うとされます。
東日本(関東など)は、コンクリートや石で囲った空間に棚を設け、骨壺のまま並べて納めるのが一般的。いっぱいになったときは、古いご遺骨をひとつの骨壺にまとめるなどの方法をとります。
西日本(関西など)では、カロートの底が土のままになっていることがあります。骨壺からご遺骨を取り出し、木綿などの布袋に移して土の上へ。時が経てば袋は朽ち、ご遺骨は時間をかけて土へ還るとされます。
関西に「人は土から生まれ、土に還る」という考えが根強く残ったこと、関東では都市化のなかで衛生的に整然と管理することが優先されたこと——違いの背景は、そう説明されることが多いようです。
お墓を継いだり、遠くへ改葬したりするときに、この違いが効いてきます。「骨壺ごと移せると思っていた」という行き違いも起こりえます。北海道でどちらの形がとられているかは、霊園や石材店にご確認ください。
輸入材が増えた一方で、国産の銘石は長く高い評価を受けてきました。
庵治石(あじいし)——香川県高松市の庵治町・牟礼町でとれる花崗岩。磨くと、表面の内側に細かな波のような模様が浮かびます。「斑(ふ)」と呼ばれるこの表情は、ほかの石では出にくいとされます。非常に硬く風化しにくい石とされ、「石のダイヤモンド」と呼ばれることもあります。傷や色むらのない極上品は採掘量のごくわずかしか取れないといわれます。
本小松石(ほんこまついし)——神奈川県足柄下郡真鶴町の安山岩。「東の横綱」と称され、江戸城の石垣にも使われたと伝えられる、真鶴の石です。磨きたてはおだやかなオリーブがかった緑。それが年月とともに、深みのある褐色へと少しずつ移ろいます。経年変化そのものを味わう石として知られています。
銘石の金額は、石の等級・大きさ・加工の内容によって大きく変わります。実際のところは石材店にご確認ください。
北海道のお墓には、あたたかい土地には無い事情があります。
Snow and frost change how a grave is built — and when it can be visited.
地中の水分が凍って地面が押し上げられる現象を凍上(とうじょう)といいます。春に融けるときに土が動き、据えた石が傾くことがあります。寒冷地では、凍結深度を見込んで基礎を深くとるなどの備えがとられます。
Frost heave can tilt a monument — foundations go deeper here.
水を入れたままにすると、凍って中筒をふくらませたり、石を傷めたりすることがあります。その年の最後のお参りで水と花を引き上げておくと安心です。
Empty the vases before the freeze.
雪の深い土地では、冬のあいだお墓に近づけない区画もあります。天候に左右されずお参りできることから、屋内の納骨堂という選び方もあります。
An indoor ossuary is another way, when snow closes the path.
葬儀の供花とは別に、お墓へ供える花にも、ゆるやかな習わしがあります。
The flowers for a grave — a gentler set of customs.
墓前の花は、左右の花立に同じものを一対で。本数は三・五・七の奇数に整えるのが通例とされます。とはいえ決まりごとよりも、季節のものを気持ちよく供えることのほうが、ずっと大切にされてきました。