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墓

墓石

boseki — the stone that keeps a name

見慣れているようで、名前も由来もあまり知られていないのがお墓の石です。部分の一つひとつに呼び名があり、鏡のような艶にも、赤い文字にも、卒塔婆の刻みにも、ちゃんと理由があります。雪の深い土地ならではの事情とあわせて、やさしくまとめました。このページは、仏式の和型を中心にご案内します。
Every part of a Japanese grave monument has a name — and a reason. A quiet guide to stone, inscription and custom.

雪の墓地のイメージ図 — 花と線香を供えた墓前で、人が雪をはらっているようす
イメージ図です。実際の霊園で撮影した写真ではありません。
Parts · 各部の名前

石には、名前がある。

まずは呼び名から。ここを知っておくと、石材店や寺院との話がぐっと通じやすくなります。
The vocabulary of a grave — from the standing stone to the chamber beneath.

和型墓石の各部の名称図 上から竿石、上台、中台、芝台が積み重なり、その前に花立・水鉢・香炉、地下に納骨室(カロート)、右手に墓誌が立つ構成を示した模式図。竿石の正面には、文字を刻む面を点線で示しています。 竿石 上台 中台 花立・水鉢・香炉 芝台 納骨室(カロート) 墓誌
和型墓石の各部(模式図)。竿石・上台・中台の三段が基本の形で、いちばん下の芝台は省く場合もあります。正面の点線は文字を刻む面です。家名、宗派の題目や名号など、刻む言葉は宗派やご家庭によって異なります。墓誌や灯籠を置く位置は、区画や霊園によって異なります。
雪の墓地のイメージ図 — 花を挿した花立と、線香を立てた香炉のある墓所。手前に灯籠
イメージ図です。花立の花、香炉の線香、手前は灯籠。区画の作りは霊園によって異なります。
さおいし。いちばん上の縦長の石。家名や題目を刻む、お墓の顔にあたる部分です。 The standing stone that bears the name.
竿石を受ける台石。中台の正面に家紋を入れることもあります。 The pedestals beneath.
しばだい。いちばん下の台石。省く形もあります。 The lowest base.
カロート。ご遺骨を納める空間。地下に設ける形と、台座の中に設ける形があります。 The chamber that holds the ashes.
はなたて。花を供える筒。左右一対が基本。石を彫り込む型と、金属・樹脂の中筒を落とし込む型があります。 Paired vases for flowers.
みずばち。水を供えるくぼみ。竿石の正面、花立のあいだに置かれます。 A hollow for offering water.
こうろ。線香を供える場所。横に寝かせる型、くりぬき型、屋根の付いた宮型などがあります。 For incense.
ぼし/霊標。納められた方の戒名(法名)・俗名・没年月日・行年(享年)を刻む板石。 The record slab of those interred.
がいさく。区画の囲い。隣との境を示し、土を留める役目もあります。 The enclosure of the plot.
法要の際に塔婆を立てる金具。浄土真宗では基本的に塔婆を用いないため、設けないのが通例です。 A rack for memorial tablets.
墓所の配置図(真上から見たところ) 外柵で囲まれた区画を真上から見た図。奥の中央に墓石、その手前に敷石、正面手前に入口の階段、左に卒塔婆立て、右に墓誌と物置石、手前の左右に灯籠が置かれた配置を示しています。 外柵 卒塔婆立て 灯籠 墓誌 物置石 敷石 墓石 入口・階段
墓所の配置(真上から見た模式図)。区画に置かれるのは墓石だけではありません。置くもの・置ける数・配置は、霊園の決まりと区画の広さによって異なります。
🔎 それぞれの名前を押すと、その部分だけをくわしく説明したページに移ります。形の種類、宗派による扱いの違い、手入れのしかた、雪の多い土地での注意までまとめています。
Five stories · 石にまつわる五つの話

石にまつわる、五つの話。

毎年手を合わせている石にも、たどっていくと技術や思想の歴史があります。
Five things rarely mentioned about the stone visited each year.

1

鏡のような艶は、新しい技術

いまのお墓といえば、鏡のように磨かれた石を思い浮かべるかもしれません。ところがあの鏡面仕上げは、比較的あたらしい姿です。

昭和の中ごろまでは、ノミやタガネで叩いて整える「小叩き(こたたき)仕上げ」が多かったといわれます。手仕事でならすため、表面はややざらついた質感になります。昭和40年代(1965〜1974年)ごろからダイヤモンド砥石や自動研磨機が広まり、石を鏡面まで磨き上げる加工ができるようになったとされます。

磨くのは、見た目のためだけではありません。表面の細かな凹凸がなくなると、水や汚れが染み込みにくく、苔もつきにくくなるとされます。風化を遅らせる効果があると説明されることもあります。

「昔ながらのお墓」と思っていたあの艶が、実はそれほど古い技術ではない、ということになります。

2

赤い文字が、意味すること

墓石や墓誌の名前が、赤(朱)で入っているのを見かけたことはないでしょうか。あれは塗り忘れでも、傷んだのでもありません。生きているうちに刻まれた名であることを示すもの、と説明されます。

生前に自分のお墓を建てることを寿陵(じゅりょう)といいます。古代中国の皇帝が即位するとすぐ自らの陵墓を造りはじめた例に由来するとされ、日本でも古くから、長寿を願う縁起のよいこととして受けとめられてきました。

朱色は、古来「生命力」「邪気払い」を表す色。生前に戒名(法名)を授かったとき、まだ生きている方の名であることを区別するために赤を入れます。そしてその方が亡くなったとき、納骨や法要にあわせて赤を落とし、黒や白などの通常の文字色に直します。

※ お墓全体を生前に建てた場合だけでなく、夫婦墓などでご存命の方のお名前だけを朱にする形もあります。地域や宗派によっては赤を用いない場合や、亡くなったあとも赤を落とさない場合もあります。

3

卒塔婆の刻みは、塔のかたち

法要のときにお墓の後ろへ立てる、細長い木の板。卒塔婆(そとうば)といいます。語源はサンスクリット語のストゥーパ——仏塔を指す言葉です。

その卒塔婆の上のほう、左右に小さな刻みが並んでいます。あれは飾りではなく、日本の古い墓塔である五輪塔(ごりんとう)の形を、板の側面で表したものです。

五輪塔は下から、四角(地)・球(水)・三角の屋根(火)・半月(風)・宝珠(空)。仏教で世界をかたちづくるとされる五つの要素、五大を積み上げた姿です。細い木の板一枚に、塔がまるごと畳み込まれている。そう思って見ると、法要での見え方が少し変わります。

五輪塔と卒塔婆の対応図 左に五輪塔(下から地輪の四角、水輪の球、火輪の三角、風輪の半月、空輪の宝珠)、右に卒塔婆の板を示し、板の上部の刻みが五輪塔の五つの形に対応することを表した模式図。 空輪 くう 風輪 ふう 火輪 か 水輪 すい 地輪 ち 五輪塔 卒塔婆
五輪塔の五つの形(模式図)と、板の上部を刻んで同じ五つの区画を表した卒塔婆。刻みは四対で、板を五つに分けています。
五輪塔のイメージ図 — 下から四角・球・三角の屋根・半月・宝珠を積み上げた石塔。画像の左上に「五輪塔」の文字が入っています
五輪塔(イメージ図です。実際の寺社で撮影した写真ではありません)。石塔の姿は、時代や地域によって異なります。

※ 浄土真宗では、基本的に卒塔婆を用いません。宗派によって扱いが異なります。

4

お骨の納め方は、東と西でちがうといわれる

墓石の下の納骨室——カロート。名前は同じでも、東日本と西日本で構造が違うとされます。

東日本(関東など)は、コンクリートや石で囲った空間に棚を設け、骨壺のまま並べて納めるのが一般的。いっぱいになったときは、古いご遺骨をひとつの骨壺にまとめるなどの方法をとります。

西日本(関西など)では、カロートの底が土のままになっていることがあります。骨壺からご遺骨を取り出し、木綿などの布袋に移して土の上へ。時が経てば袋は朽ち、ご遺骨は時間をかけて土へ還るとされます。

関西に「人は土から生まれ、土に還る」という考えが根強く残ったこと、関東では都市化のなかで衛生的に整然と管理することが優先されたこと——違いの背景は、そう説明されることが多いようです。

お墓を継いだり、遠くへ改葬したりするときに、この違いが効いてきます。「骨壺ごと移せると思っていた」という行き違いも起こりえます。北海道でどちらの形がとられているかは、霊園や石材店にご確認ください。

5

いまも選ばれる、国産の銘石

輸入材が増えた一方で、国産の銘石は長く高い評価を受けてきました。

庵治石(あじいし)——香川県高松市の庵治町・牟礼町でとれる花崗岩。磨くと、表面の内側に細かな波のような模様が浮かびます。「斑(ふ)」と呼ばれるこの表情は、ほかの石では出にくいとされます。非常に硬く風化しにくい石とされ、「石のダイヤモンド」と呼ばれることもあります。傷や色むらのない極上品は採掘量のごくわずかしか取れないといわれます。

本小松石(ほんこまついし)——神奈川県足柄下郡真鶴町の安山岩。「東の横綱」と称され、江戸城の石垣にも使われたと伝えられる、真鶴の石です。磨きたてはおだやかなオリーブがかった緑。それが年月とともに、深みのある褐色へと少しずつ移ろいます。経年変化そのものを味わう石として知られています。

銘石の金額は、石の等級・大きさ・加工の内容によって大きく変わります。実際のところは石材店にご確認ください。

📖 このページは、一般に語られている由来や慣習をまとめたものです。一次資料で確認したものではなく、諸説あるものも含みます。宗派・地域・寺院や霊園の決まりによって、呼び名も作法も異なります。ご自身のお墓のことは、菩提寺・霊園の管理者・石材店にご確認ください。
Customs vary widely by sect, region and cemetery — please confirm with your temple or stonemason.
Hokkaido · 雪の土地のお墓

雪と、凍てつきと。

北海道のお墓には、あたたかい土地には無い事情があります。
Snow and frost change how a grave is built — and when it can be visited.

Frost · 凍上

地面が持ち上がる

地中の水分が凍って地面が押し上げられる現象を凍上(とうじょう)といいます。春に融けるときに土が動き、据えた石が傾くことがあります。寒冷地では、凍結深度を見込んで基礎を深くとるなどの備えがとられます。

Frost heave can tilt a monument — foundations go deeper here.

Winter · 冬じまい

花立の水を抜く

水を入れたままにすると、凍って中筒をふくらませたり、石を傷めたりすることがあります。その年の最後のお参りで水と花を引き上げておくと安心です。

Empty the vases before the freeze.

Indoors · 納骨堂

屋内という選び方

雪の深い土地では、冬のあいだお墓に近づけない区画もあります。天候に左右されずお参りできることから、屋内の納骨堂という選び方もあります。

An indoor ossuary is another way, when snow closes the path.

❄ 冬のお参りが難しいぶん、北海道では雪どけを待ってお参りをされる方が多いと聞きます。石材店の工事も天候に左右されるため、時期によっては着工を待つことになります。建立や墓じまいを考えるときは、季節に余裕をみて相談されるとよいと思います。※ 事情は地域・霊園によって異なります。
Flowers · 墓前の花

花立に、一対。

葬儀の供花とは別に、お墓へ供える花にも、ゆるやかな習わしがあります。
The flowers for a grave — a gentler set of customs.

墓前の花は、左右の花立に同じものを一対で。本数は三・五・七の奇数に整えるのが通例とされます。とはいえ決まりごとよりも、季節のものを気持ちよく供えることのほうが、ずっと大切にされてきました。

よく選ばれる花
菊、カーネーション、りんどう、スターチス、グラジオラス、ケイトウなど。日もちがよく、花びらの散りにくいものが向きます。
控えるとされる花
とげのある花、つる性の花、香りの強い花、毒のある花。地域やご家庭の考え方によります。
夏のお参り
日なたの墓前は、水がすぐに温みます。花立の水は毎回入れ替え、茎は短めに切って。
持ち帰り
供えた花はお参りのあと持ち帰るよう定めている霊園もあります。入口や水場に、こうした掲示が出ていることがあります。区画の決まりをご確認ください。
葬儀の花との違い
通夜・告別式に贈る花は「供花(きょうか/くげ)」。作法も呼び名も別ものです。→ 供花・献花のマナー
花の持ち帰りをお願いする掲示のイメージ図 二本の柱に支えられた木の掲示板に、「お参りのあとのお花は、お持ち帰りください」と書かれているようすを示した模式図。 お参りのあとのお花は、 お持ち帰りください。
模式図です。文面は霊園によって異なります。持ち帰りをお願いしている霊園もあれば、そうでない霊園もあります。
🌼 墓前の花の習わしも、地域・宗派・ご家庭、そして霊園の決まりによって異なります。ここに書いたものが唯一の作法ではありません。区画の決まりは霊園の管理者にご確認ください。