継ぐ人がいない。遠くて通えない。体が動かなくなってきた。
理由は家ごとに違いますが、迷われる気持ちは似ています。何をするのか、どの順番で、何にお金がかかるのか。決める前に知っておきたいことを、順を追ってまとめました。
お墓を片づけることと、ご遺骨の行き先を決めること。
Clearing the plot, and finding a new place for the ashes.
墓じまいとは、お墓の敷地を更地にして、墓地の管理者に使用する権利を返すことです。「お墓をなくす」と聞くと冷たく響きますが、実際にすることは二つに分かれます。
ひとつは、墓石を撤去して区画を更地に戻し、管理者へ返すこと。もうひとつは、取り出したご遺骨を、新しい形で供養することです。この二つ目があるので、墓じまいは「終わり」ではなく「移し替え」に近い作業になります。
そして忘れられがちですが、ご遺骨の行き先が決まっていないと、手続きそのものが進みません。役所に出す書類で、移す先を示す必要があるためです。
墓じまいを考えはじめるきっかけは、家ごとに違います。たとえば、次のような事情です。
子や孫がいない、遠方にいる、ひとりに負担が寄る。お墓を継ぐ人を前提にできない——ここから考えはじめる方がいらっしゃいます。
生まれ育った土地にお墓があり、いまは離れて暮らしている。お参りに行くこと自体が、年に一度の遠出になる。体が動かなくなってくると、さらに難しくなります。
管理費、掃除、雪かき、修繕。自分の代で区切りをつけておきたい、という考え方もあります。
よく引かれる数字は、お墓の数ではありません。
The widely quoted figure does not count graves.
厚生労働省の「衛生行政報告例」によると、改葬——ご遺骨を他の墳墓や納骨堂へ移すために市区町村の許可を受けた件数は、次のように推移しています。
2022年度(令和4年度)151,076件 → 2023年度(令和5年度)166,886件 → 2024年度(令和6年度)176,105件。2年続けて、前の年を上回っています。
報道でもよく取り違えられるところです。この統計が数えているのは、発行された改葬許可証の枚数です。そして許可証は、ご遺骨ひとりぶんにつき一枚必要になるとされます。墓地埋葬法施行規則では、改葬許可の申請書に亡くなった方の本籍・住所・氏名・性別・死亡年月日を書くことになっており、申請の単位が故人ごとに組まれています。
つまり、ひとつのお墓に四人の方が眠っていて、それをまとめて移した場合、統計上は「改葬4件」と数えられます。ある石材店は、1つのお墓から18体のご遺骨を移した一件が「18件」として数えられた実例を挙げています。
ですから「墓じまいが年間十数万件」という言い方は、正確ではありません。実際に、たたまれたお墓の数は、これより少なくなります。それでも増えていること自体は確かで、傾向としては受け止めてよい数字です。
書類は、移す先が決まってからでないと揃いません。
The paperwork only comes together once the destination is settled.
条件で大きく変わるため、ひとつの数字では示せません。
Too variable for a single figure — here is what you pay for.
墓じまいの費用について、公的な統計は見当たりませんでした。石材店や霊園紹介サイトが金額を示していますが、幅がありすぎて、ひとつのめやすとして示せるものではありません。
かわりに、何にお金がかかるのかを並べます。見積もりを受け取ったとき、この項目が入っているか、どこが高いのかを見られるようになります。
金額に決まりがないぶん、話の進め方がものを言います。
There is no set amount — how you raise it matters.
寺院墓地の場合、檀家をやめることになります。その際にお納めするのが離檀料です。法律で決められたものではないとされ、決まった額もありません。
金額をめぐって行き違いが起きたという話も語られます。ただ、その原因が金額そのものではなく、伝え方や、伝える順番にあることもあります。
費用も、続け方も、あとから変えられるかどうかも違います。
Six options — they differ in cost, continuity, and reversibility.
住まいの近くへ移して建て直す形。お参りに行きやすくなるのが選ばれる理由です。ただし建てる費用がかかり、毎年の管理費がかかるものが多くあります。継ぐ人を前提とする形が中心です(承継者を必要としない区画もあります)。
寺院や霊園が供養と管理を引き受ける形。継ぐ人を必要としません。個別に安置する期間を設け、そのあと合祀に移る契約のものがあります。期間と、期間のあとどうなるかを確かめてください。
天候に左右されずお参りできます。雪の深い土地では、そのまま「冬も行ける」という意味になります。使用の期間が決められているものがあります。
費用が抑えられ、継ぐ人を必要としない形があります。個別の区画か合同か/期間は何年か/期間のあとご遺骨はどうなるか。この三つは必ず契約書で。
粉状にしたご遺骨を海に撒く形。手を合わせる場所が残りません。ご家族のなかに抵抗を感じる方がいないか、先に確かめておきたいところです。撒く場所と方法は、市区町村と依頼先の両方にご確認ください。
小さな骨壺やペンダントに納め、ご自宅で供養する形。ご自宅で「お預かりする」ことと、ご自宅の敷地に「埋める」ことは、まったく別です。焼骨を埋蔵できるのは墓地に限られています(墓地、埋葬等に関する法律 第四条第一項)。
着工できる季節が限られるぶん、逆算が要ります。
The season decides when work can start.
石材店の工事は天候に左右されます。時期によっては着工を待つことになります。春から秋に集中しがちですので、その分の余裕をみて、早めにご相談を。
冬のあいだ、雪に埋もれて近づけない区画があります。新しい行き先を選ぶときに、屋内の納骨堂が候補に入る理由が、ここです。
道外や道内遠方のお墓をたたむ場合、話し合い・立ち会い・納骨で複数回の移動が要ります。交通費と日程も、費用の一部として見ておいてください。
金額から入らず、ここから考えると迷いにくくなります。
Five questions, before the price.
墓じまいは、後ろ向きな決断ではありません。お参りできる形に作り直すこと——そう考えれば、選ぶ基準もはっきりしてきます。
迷われたときは、菩提寺、霊園の管理者、石材店、そして市区町村の窓口に、遠慮なくお尋ねください。何度聞いてもいいことです。
どこから取った数字かを、すべて書いておきます。
手続きの名称・必要書類・様式・手数料は、市区町村によって異なります。作法や呼び名は宗派・地域・寺院や霊園の決まりによって異なります。本記事は一般に語られている内容をまとめたもので、一次資料で確認したものではなく、諸説あるものも含みます。実際の手続きは、菩提寺、霊園の管理者、石材店、市区町村の窓口にご確認ください。